天国と地獄 1963年 日

打って変わってどシリアス。最初は権造さんのことを金と権力の亡者で、切れるけどやなやつだなと思ってるとだんだんいい奴だとわかってきて感情移入してしまう。三船さんが演じると、どことなく子供っぽくて憎めない感じになるなぁ。すごく実現性の高そうな誘拐トリック、あんな緻密な計画を考えた犯人の、人間くさい心のもろさに胸を打たれる。冷血になりきることができない、本当は天国のような暮らしにあこがれただけの子供っぽい犯人。
仲代達也のスマートな刑事の演技もステキ。一人だけスッとしてて垢抜けてるw志村喬はものすごく存在感のある置物みたいになってる。お金の使い方も人の使い方も、いろんな面で贅沢な映画だ。

用心棒 1961年 日

なんか個人的に黒澤ブームなので続けてみています。作品ごとに少しずつ雰囲気が違うんですが、用心棒はとくにテンポがよくって楽しい。笑いの要素も多いし、見てて飽きない。ものすごくキャラが生き生きしていて、それぞれが自分の目的に必死で大局を見失っている中、浪人・三船敏郎博徒仲代達矢だけが冷静でいる。
三船の殺陣は、本当に人を殺しそうな殺陣だなあといつも思います。洗練され、コントロールされた殺意と、鍛え上げられた体からの無駄がない動き。それを、あの用心棒が持っているということが痛快なんだろうなあ。燃える。

僕のピアノコンチェルト 2006年瑞

はじめに予想したのとは大幅に違った方向に行くんだけど、それが爽快感のあるラストにちゃんとつながっている。大風呂敷広げてきれいにたたんだ感のある傑作。主人公の子供は天才児で、それだからこそ孤独を強く感じて生きている。おじいちゃんと子供って組みあわせだけでけっこうやばいのに、この映画の二人は本当にかわいいんですわ。
誰もが感じる、社会から疎外された感じ、他人にわかってもらえない不安、望まれた自分となりたい自分の乖離などがきちんと表現されている。押し付けられた生き方ではなく、自分で選択することで、主体性と意味を持って生きていく、少年の再生のものがたり。

ヒーロー 靴をなくした天使 1992米

多分に教訓的だけど、主人公のキャラクターとコメディタッチの物語にうまく昇華されて、鼻につかずに見れる良作。日々の生活に流されがちな、自分はヒーローではないと思う市民の中の、等身大の善のありかたを考える。気付かず体が動いて人を助けてしまうようなとき、そこに善が宿っている。
アンディ・ガルシアが汚れまくっているので、きれいになるまで誰だかわからなかったw

切腹 1962年日

あらすじを聞いたらオチが気になったので視聴。リアルで救いのない食い詰め浪人ドキュメンタリー。竹光で切腹なんてどうやったら思いつくのか…!映画館で見ていたら逃げ場がなくてうわああああってなっていただろうなあ。
体面だけを気にして(それが平時における武士のすべての要素であることはわかった上でも)弱いものを踏みつけることによってのみ成立する権力。ナメられたら終わりのやくざみたいな世界ですが、浪人と武士どちらにも一分の利はあるよなあ、と思ったり。

ヒート 1995年米

目の前に犯罪者がいたら追いかけずにはいられない刑事と、盗みの才能に恵まれすべてをそこに捧げている男。どちらもぎりぎりの世界で、たくさんのものを犠牲にして生きている似たもの同士。
二人がコーヒーを飲みながらお互いの価値観を語り合い、腹を探り合うシーンがすごくいいです。話はすごく合うのだけど、決してわかりあうことはない。鏡写しのような関係が浮き彫りになっていく様子に引き込まれます。テンポもよくて、2時間半をストレスに感じないのがすごい。